タイトル イケメン行商人ヤン・バスク

プロローグ

一粒一粒想いを込めて、誰かの笑顔の為に一生懸命作り上げた粉
その名は「スウ粉」
スウ民族が作った、スウ民族しか作れない特別な食粉。

「今日も沢山作ったのじゃ!!もう時期に彼が取りにくるであろう」
そう…これは取引、特別な粉の代わりに
生きていく十分な物資と大好物の飴を頂くという
正式な取引。

先程出てきた彼というのは
私達の粉を信用して取引してくてる
初めての行商人ヤン・バクス。
いつも、彼がこの村に訪れるのを
みんなで待っている。

彼のいる街からここまではそう遠くはない。
しかし、ここへ入るには暗闇の洞窟を抜けなければならない。
彼にとっては危険な仕事であろう。

「こんにちは、長いる?」
ああ、いつもの声…そう彼だ。

「今日も持ってきたよ、交換しよう!!」

私を含め多くの仲間達が彼の足元に寄っていく。
約束の品を確認し、もらった物をみんなに分け与える。
それが私、長の仕事。

そんな日々が何年続いたろうか忘れるくらい
時が過ぎていった気がする。

でも、彼はいつも変わらずにここへ来てくれる。
とても嬉しいことだ。

「ヤン・バクスとの出会い」

上のお空は私のような水色が透き通っていた。
そんな日常のこと、空から翼の生えた女性とその女性の背に乗る少女が舞い降りた。
女性の姿は天使とは程遠く、黒髪に黒いコートを着ていた。
少女の方は、紫色のロングで
ふわふわなスカーフを纏っている。

「わぁ、ここ新大陸だよアルエちゃん」
「ホントだ也!!見てみて可愛い妖精さんがいる」

そう、今思えばこの出会いが
日常を大きく変えることになってしまった。

悲劇と呼ぶには甘く
喜劇と呼ぶには苦い物語。

彼と同様、彼女達もよくここへ訪れてくれた。
彼がいつも通る洞窟で魔物を発見!!
その伝達を聞いてからも也とアルエは
洞窟の見回りもしていた。

彼と彼女達も友人のように親しくなり
洞窟を抜けたところまで二人は彼を見送った。

いつも彼は一人だと思っていたので
彼女達を見ていると凄く安心した。
彼女達は異大陸の人。
沢山の思い出を教えてくれた。
私同様、仲間達も魅了する程だ。
毎日が楽しくて仕方なかった。

そう、あの日が訪れるまでは…

それは空がオレンジから紺色に染まる頃、いつもの様に三人は私達に手を振って
洞窟の中へと入っていく。
そこで出会ってしまった魔物の群れ、ヤン・バクスが魔物に襲われようになったのを
アルエは身の正体(魔物ということ)を暴いてまで助けた。
彼はそんな少女を見て叫びながら走り出してしまった。

そんな話を後日、也という女性が教えてくれた。

三人は身体に傷を負うことはなかったが
ヤン・バクスとアルエという少女の心に
深いキズを負ってしまった。

その日から、彼女達は訪れても
彼…ヤン・バクスが現れることはなかった。

二人は彼の代わりになろうと毎日
物資と飴を自らの大陸から集めて来てくてた。

とても嬉しいが…少女と同じく私達も心が晴れることはない。
暮れる日も暮れる日も洞窟の入口を見つめては悲しむ。
もう…彼は来ることはないのだろうか。
「そんなことないよ、バッ君はきっと…」
「…あ!見てアルエちゃん」

二人が見つめたそこには、人影が!?

「バッ君!?」

そこにはお約束の物資と飴の数倍を担ぐ
ヤン・バクスの姿が。

「…也、アルエ、なんで?」
「私達がヤン君の代わりに物資を届けていたの」

二人は彼に駆け寄ろうとする。

「ち…近づかないでくれ!!」
「ひい!!」
彼の咄嗟の怒鳴り声に怯えるアルエ。
その後、微かにそう聞こえた。

「俺から行くから…そこにいて」
一歩一歩震える足を踏み出していく。
少しずつだけど確実に。

そして…彼は少女の目の前までたどり着いた。
「この前は…」  「この前は…」
彼と少女の声が重なる。

「怖がらせてごめんなさい!!」  「逃げてしまってごめん!!」

二人の謝罪が空へ吸い込まれていった。
見つめ合って苦笑いから少し泣きそうな顔をする二人は
きっと、この先忘れることはないだろう。

こうして再び三人と私達の時間は動き始めた。
その後の彼はというと…

「やぁ長!!また書斎借りるよ」
「ああ、減るもんじゃないし好きなだけ使ってくれ」
「ありがとう!!」

何か思いつたかの様に本を探り始めた。
「まったく、一体何の本を探しとるんじゃ?」
「アルエを元の姿に戻す方法だ」

そう…彼は、アルエが本当は少女なのに魔物になってしまう魔術にかけられたのだと思い。
元に戻す薬を見つけ出そうと頑張っている。

「なぜ、そこまでして頑張るんじゃ?」
ボソボソっと声が聞こえる。
「あのままじゃ友人にはなれても恋人に」
「それってつまり…まぁよい、身体壊すでないぞ?」
「大丈夫、仕事もしっかりするから」

いつもと同じようで少し慌ただしい日常。
私達は彼の仕事をなくさない為にも
今日もスウ粉を作り続ける。

イケメン行商人ヤン・バスク前編完。
ヤン「前編だとぉ!!?」




  

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