タイトル イケメン行商人ヤン・バスク中編

プロローグ(也視点)

今日も晴れ、空を飛ぶには申し分ない。
意識すれば浮かぶ光の欠片。
それが、私の武器であり、翼だ。

元の姿に戻る秘薬

太陽の日差しが反射して、海がキラキラ光る。
アルエ「也?今日もバッ君に会いに行こうよ」
背中に跨る少女が言った。
言われたからじゃないが、私は頷いていつもの場所
スウ民族の村へと飛ばした。

?「大変じゃ大変じゃあー!!」
目的地にたどり着くと、長が一人
クルクルと回っていた。
一体どうしたといううだろう?

目をキョトンとしていると先にアルエが問いかけた。
ア「どうしたの?おさ」
長「どうしたもこうしたも、スウ民族絶大の危機じゃ!!」
慌てながら村人を集めていく。

長が離れていく姿をみて立ち尽くす。
ア「なんか大変そうだね」
也「うん」
?「うーんなんでかなぁ?」
背後から男性の声が聞こえる。
ア「へ?あ…バッ君?!」
也「何か知っているの?長の騒ぎについて」
ヤン「まぁ…一応は」
長「見つけたぞ!」
ギク!
その言葉は明らかに彼に向かって放たれていた。
長「ほれ!みんなも強く説得するんじゃ!!」
村人A「その洞窟危険!諦めろ」
村人B「あなたに何かあっては私達が困るのよ!」
村人C「そもそも長が書斎を貸し出すから
こんなことになってしまったんだ」
長「す…すまん」
也「え?どういうこと??」
ヤン「えっと…実は」

彼、ヤンバスクはアルエちゃんを元の少女に戻そうと
元の姿に戻る秘薬を作る原料の在り処を
ここの書斎で見つけ出したが。
その原料がある場所は
とても危険な洞窟で
心配したスウ民族達は必死で止めているという。

也「うーん、事情はわかったけど」
ヤン「元は少女なのに、魔物に変身してしまうなんて可哀想でしょ」
バッ君は大きな新聞記事を開いた。
そこには、魔物扱いされたアルエちゃんの情報が載せられていた。
ヤン「きっと何かの呪いで魔物にされてしまったんだよ!ね?」
ア「元の少女ってそもそも私はまっ!!うぐっ!?」
咄嗟にアルエちゃんの口を塞いだ。
也「ごめん!ちょっとトイレ!!」
ヤン「?」
長「その突き当たりを右じゃ」
也「アリガトー」
入る気さらさらないトイレに
アルエちゃんを抱えて
全力で走った。

バッ君と距離を置いてから、アルエちゃんをおろし。
小さな声で呟いた。
也「ダメだよ、本当は魔物って知られたら友達でいられないよ?」
也の妄想開始。
ヤン「そんな…本当は魔物だなんて、もしや人間の姿で人間を油断させて
世界を支配する気だなぁ!!」
妄想終了。

ア「ごめん、そうだね、これまでは姿見られるだけで避けられたのに」
也「うん、姿を見ても傍に居てくれる人は大切にしないとな」
ア「うん!バッ君良い人だね♥」
そう言って私とアルエちゃんはバッ君達のの所に戻った。
ヤン「えっと…大丈夫?」
也「大丈夫大丈夫、それでさ」
ア「私達の友達で本が大好きな人がいるんだけど」
也「もしかしたら、もっと簡単に手に入るかも!!」
ヤン「本当!?そういうことならその人に期待してみようかな」
長「ん?ということは行かないのじゃな?じゃな?」
村人「やったぁー!!」

こうして、なんとか誤魔化せたのはいいものの
本当の戦いはこれからだった。

サモの家に帰った時には、辺りはすっかり暗く
鳥の鳴き声の代わりに虫が鳴いていた。
家に帰っては早速、事情をサモに話した。

サモ「嫌だ!!」
也「そんなこと言わずに、頼むよサモエモーン」
ア「サモエモーン」
サモ「誰がサモエモンだ!!押し入れに寝たことも、青く染めたこともないぞ」
也「どうしても、会ってもらえない?」
サモ「ふむ、スウ民族が作るスウ粉か…アポロに提供すれば高く売れる」
サモの瞳がガラガラとルーレット形式で金額のマークに変わった。
ア「きっと、バッ君の期待に応えてくれたらスウ粉もらえるよぉ?」
よし!これでひと押し。
サモ「うんうん、也がそれでクッキーを焼いたらさぞかし美味いだろうな」
也「うん、もういっぱい作るよぉ!!」
これでふた押し。
デ「問題はどう諦めさせるかだ…な」
ア・也「………」
サモ「そうだ!それを考えるのがめんどくさい、だからパス」
也「うわーん、ディアスの所為だよ!!」
ポカポカ
ア「あともう少しだったのに」
トントントン
デ「俺が悪いのか!?
いや、これは避けられない課題だろう?
っていうかそれで何回目だ?」

気がつけば、時間は深夜まで続いていた。
両方とも譲らない戦いの果てに何があるのだろう。
睡魔に負けそうな私は半分諦めかけていた。
最後の捨て台詞としてとっておいたある言で解決することになったのは
今現在でも奇跡だったと思っている。
それは、寝ぼけながら言った言葉。
也「バッ君も本好きだから、サモと気が合うと思うんだけどな」
サモ「しつこいな、その者の趣味など関係な…くないかも」
何か閃いたような、そんな瞳の変化をサモクリスは見せた。
その後、サモクリスは一人で何かに取り掛かっていたが
内容は一切教えてもらえなかった。
その結果は次の日まで持ち越されたのだ。


今日も晴れ、今回はサモエモンと呼ぶに相応しい手段
ライトゲート(どこでもドア)でスウ民族の所へ行った。
いつもより早い出発だ、バッ君も来ているだろうか?
長「おお?その赤いのが例の友人じゃな?」
也「うん!ほらサモ、自己紹介」
サモ「はぁ、君はどこぞの親か!君のせいで徹夜だぞ徹夜、とりあえずバツという者が来るまで寝るぞ」
いきなりしゃがみ込み、私の足に持たれて寝てしまった(笑)
也「ふあ…私も寝不足かも」
ア「ふあああ」
長「仕方ないのう、ほれベットまで案内しよう、言っとくが自力で歩いてもらうぞ?」
也「うん、アリガト」

しばらく意識が途切れたまま、風に吹かれていた。
長のいうベットとは、木と木の間を網で結びつけた
私が小さい頃に憧れていたものだった。

すっかりお昼になってしまったが、バッ君の声で目が覚めた私は…。
ア「あ、おはよう也」
サモ「ふむ、なかなか話がわかるではないか」
ヤン「どういたしまして、それでサモ、ここまでは」
サモ「もちろん、私が送ってやろう」
也「え…えっともう話始まってる?」
そっとアルエちゃんに問いかける。
ア「うん、バッ君素直だね♥」
也「本当、初対面なのにサモの話をあんなに真剣に聞いてる」
表情がそんな感じ。
サモ「ほら、ここに載っているだろう?」
ヤン「本当だ、こんなに簡単に手に入るのか」
嬉しそうに話を進める。
サモ「ちなみに、君が調べていた危険な洞窟は既に崩れているから行っても意味ないぞ?」
ヤン「そうなんだ、行かなくて良かった」
サモ「簡単ではあるが魔物も弱いがいる、也と私で護衛しよう」
ヤン「そこまでしてもらえるなんて、ありがとう!このお礼は必ず!!」
サモ「いやいや、そのスウ粉という物を少し分けてくれればそれでいい」
ヤン「喜んで!少しとは言わず沢山あげるよ!!」
これまでにない笑顔を見せつけられて。
アルエ「なんか複雑」
也「あ、でもその流れだと…」
手に入れてしまうんじゃ?

サモ「出発は明日の午後1時にしよう、言っておくが
ここで最初で最後の発掘場だぞ?」
ヤン「うん、気合い入れて待ってるよ」

そう言って、サモはこちらに戻ってきた。
サモ「さぁ、今日はもう帰ろうか」
也・ア「え!?もう?」
まだ来て、寝て、バッ君とも話してないのに。
ヤン「よし、そうと決まれば、明日の準備だ!あ、也とアルエまたね」
挨拶早っ!!まぁ、あんなに嬉しいなら仕方ないか。
今日はもう帰ることにした。

家に帰るとサモは珍しく自ら進んでお茶を入れて私達の前に置いてくれた。
サモ「ふむ、まずは作戦の説明の前に種明かしをしよう」
バン!と出されたのは、バッ君との話で使っていた本だ。
サモ「聞いて驚け、これは私が書いた本だ」
也・ア・デ「ええー!!?」
本気で驚いた。
サモ「也、君の言葉でピンときたのは
彼は本の内容なら何でも信じる所があると確信したからだ」
ア「それって、バッ君を騙すってこと!?」
サモ「アルエに言われるのは心外だな、君は初めからそうしているだろう?」
也「でも、手に入れれるんだよな、その場所で」
サモ「いや、必ず失敗に終わらせる、君と私で洞窟の崩壊だ」
デ「また大胆だな家主」
サモ「ちなみにあるというのも嘘だ」
也「いいのかなぁ…もしバッ君が怪我したら」
ア「えーそんなのヤダヤダだよ」
サモ「それは君に一任する、完全に崩れる前に彼と共に脱出してくれ」
也「サモは?」
サモ「コ・ワ・ス」
ア「その三文字がストレートに怖いよ」
デ「也、今回は家主のやり方に賛成だ、ああいう人間は危ない目に合わないとわからねぇ」
也「うーん、わかった、頑張って守るよ」
ア「私は…」

サモ「悪いが彼の代役を頼む、君にしか頼めないんだ」
ア「う、うん仕事終わってもスウちゃんと待ってるよ」

そして、当日の午後1時。
彼は探検用の服を着て待っていた。
ヤン「今日はよろしく、也とサモ」
デ「今更だが俺はスルーだよな」
也「見えないから仕方ないの!」

目的地までは光の速さで
ここからは自分の足で進むで行く。
作戦開始の合言葉は
サモ「いいか?ヤンバクス、一番大事なのは手に入れることよりも
無事にアルエの所に戻ることだぞ?」
そう、ここからだ。
サモの指示通りに動くぞぉ。
ヤン「うん、大丈夫、ありがとうサモ」
也「それじゃ、バッ君、私についてきて」
ヤン「うん」
バッ君を誘導していく。
サモ「君の背中は私が守るから気にせず進んでくれ」
ヤン「うん」
ガラ←物音
也「しっ、何かいる!!」
ヤン「魔物?」
サモ「ああ…名前はマルキスだ」
デ「おい!家主…もっといい名前考えろ」
也「…よし、できるだけ離れてすす…」
マ「ガァァァァl!!」
ヤン「うわぁー!」
サモ「………」

サモの回想開始
也「えっ!?1時までにそこの魔物全滅させる」
サモ「作戦の成功に必要だ、ということで先に魔物狩りな」
也「でも、何も出ないとバッ君驚かないよ?」
サモ「もちろんそこも考えてある」
回想終了。

マ「ガウ!ガウーン!!」
ヤン「たっ助けてぇー!!」
デ「…でいつまでやるんだ?これ」
也「バッ君こっち!!」
ヤン「う…うん」
私は次の工程に進んでいく。
そう、サモの指示通りに。
そのまま、ディアスで壁をぶち壊し、
飛び散る岩とマルキスの炎からバッ君を翼で守って
ただ…太陽の光が降り注ぐまで走り抜けた。
目的のはずだった、元の姿に戻る薬のことを忘れて。

息が切れたと思いつつも足は止まらない。
背後も振り返らない、まぁ今頃はサモが楽しく洞窟を崩壊しているだろう。
ヤン「はぁ…はぁ…な、也もう走れな…いよ」
膝を地面に叩きつけると同時に
飛んでくる汗とその匂い。
そんなバッ君を木陰に誘導して休ませた。
也「うん…私も限界とっくに超えてる」
そう言っていられる時には
もう洞窟を抜けていた。

ガラガラガラガラ ゴロゴロゴロゴロ

岩と岩が擦れる音が鳴り止まない。
入る前に見た洞窟の面影がなくなっていく。
遠くでサモが浮いて手を振っている。
もうひとふんばり、サモのとこへ足を運ぶ。

サモ「はい、工事終了」
デ「ただ壊しただけじゃないかぁ!!」
也「お疲れ、うまくいったみたいだな」
サモ「何寝言を言っている、ここからが本番だ」
木陰に座り込むヤンバクス。
サモ「さぁ…失敗には終わったが、これでどうだ?」
サモと一緒にバッ君に会いにいく。

ヤン「…手に…入れれなかった、くそ!」
サモ「それは残念だったな…ヤンバクス、君に聞きたいことがある」
ヤン「ん?」
サモ「君はアルエの魔物の姿を見た時どう感じた?」
ヤン「恐い…かな、そう思うからこそ元の姿に戻してあげたかった!!」
まだまだ諦めないぞと言わんばかりに立ち上がる。
そしてトボトボと歩き出した。
也「サモ…?」
サモの様子もなんか変だ。
何か迷っているような、でも。
サモ「もし、アルエがただの少女なら、君はあの時死んでいた」
どこに行くのか予測できない彼の足を止めた。
ヤン「!!?」
サモ「人であれ魔物であれ、本一つであれ、その世にある全てのものに意味と価値がある」
也「バッ君…まわりくどいことしてゴメン、でも今ならわかってくれると思う」

そう、ずっと拒んでいた真実。
サモ「アルエの元の姿は魔物だ」
ヤン「……………」

そして、アルエちゃんのいるスウ民族の村へ帰った私達は
アルエちゃんに本当のことを話したと説明した。
ヤン「………」
ア「………あ、あの」
なんか気不味い空気が漂う。
サモ「こら!男ならハッキリ言え!!」
也「アルエちゃん、大丈夫」
悲しげな表情のアルエちゃんの頭を優しく撫でる。

ヤン「がっがががが」
ア「どどどどうしたの?バッ君が壊れたよぉ」
ヤン「外見よりも中身の方を大切にしてる…かから、こっこれからも友達ぃ…だ…よ」
サモ「うーん15点」
也「低っ!!ちゃんと言えたからいいじゃん!!」
ア「え…ホント?私魔物だよ?」
ヤン「こっ心も?」
ア「えっ、ううん!そんなことない、そんなことないよ!!」

最初から真実を言えばよかったかも知れない、けど
ここまでしないと気づかない人もいるだろう。
この方が二人の絆は深まったのだと
私はそう信じたい。

イケメン行商人ヤン・バスク中編完




  

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