タイトル イケメン行商人ヤン・バスク完結編

プロローグ(サモクリス視点)


「君の心が決めたこと」

リ「こ、これはどういうことだ?」
リギョンの周りにいた兵士は
一人としていなくなり、万事屋とスウ民族と依頼主(ついでにバスク)が注意を払いながら
周りを取り囲んだ。
サモ「味方といい敵といい傷つける気はないからな。」
リ「おのれ魔術師、あいつらをどこへやった?」
サモ「ライトゲートでコンジュ都市のガーディアン本部まで誘導した。」
今頃、こちら側のガーディアンが取り調べしているところだろう。
ア「このおじさんも送っちゃえばいいのに」
也「ダーメ!
それはルティリアさんの仕事、そうですね?」
ル「ええ、戦いを避けて頂いて感謝するわ」
バ「んで?どうするんだよ」
証拠はあっても罪を認めてないだろう?
すんなり誘導する気はないような目つきをして
リギョンは舌打ちした。
そして。
リ「………ふっ」
サモ「何がおかしい?!」
リギョンが凶器持っているようには見えないし
でもなんだ?追い込まれたような表情はしていない・
リ「それで勝ったつもりか?」
ドッ!!
也「え、ルティリアさん?」
ルティリアが身体のバランスを崩し前へ倒れた。
背後には突き刺さった矢が血の匂いを誘う。
バ「!??」
スウ「う、うのお~なんということじゃ」
也「ルナティアさーん!!」
咄嗟に也が依頼主を支える。
サモ「ま、まだ兵士がいたのか!?」
やけになって見渡しても暗くて何もわからない。
予想外の展開になってきたな、とりあえず早く依頼主に回復の魔術を。

何も言い訳はしない、これは私達万事屋のミスだ。
その時。

ビュンビュン
也「サモ…またくる」
サモ「くそ、回復時間ももらえないのか!!」
これ以上、負傷者を出すわけにはいかない。
なんとしても守らなければ。
洞窟という狭い範囲だと避けれても
違う誰かに当たってしまう。
ここは…。
サモ「召喚ナイトドラゴン ファイアソード」
炎を纏った剣が洞窟の視界を広げる。
これで弓矢に向かい打て!
キン キン
ビュンビュンビュン
キン キンキン
360度、尚且つどのタイミングで飛んでくるのかわからない。
見張りながら防ぐので精一杯だが
その分相手の場所が特定できる。
サモ「也!!どこから飛んできたかわかった、数は5、弓は…放っているのは人間ではない、機械だ!」
本来、息を切らしながら言った言葉なので、上の文字通りに言えているか。
自分でも不安だ。
バ「機械!? 」
也「ど、どうしよ」
ルティリアを膝に置きながら
悲しげに言った。
スウ民族も何も言えずにバスクに寄り添っている。
リ「…ここにいる生き物全員始末してれる!」
あの時、私を送らなかったことを後悔させてやると
高らかに笑った。
リ「交渉不成立ということでよろしいな?」
サモ「…待て」
キンキン
ビュンビュン
キンキン
私を無視して矢が飛び交う所を
一人涼しい顔で去っていくリギョン。

決められた道を歩くかのように
矢が数センチ横に過ぎ去っても
ビクともしなかった。
全て計算されていたのだ。
場所も、役者も。
おそらくは、全てリギョンの予想範囲の会話だったのだろう。
人を騙し取ったお金で人を利用し、罪を暴いてたものと知ったものは消される。
これが最初のことだとは思えない。
そんな…手馴れた落ち着きがあの男にはあった。
ル「いっ!!」
サモ「ぬ!?」
突然ルティリアが動き出した。
也「ルティリアさん!動かないで!出血がヒドイ。」
涙目で、すぐに病院に連れて行くからと告げる也。
正直見ていられない。
ル「いっ行かせて、ここで殺さないと…また」
也「でも!」
バ「くっ!!」
スウ民族「オロオロオロ」
誰もが絶望に飲まれかけていたその時
炎の光とはまた違う温もり視界が一気に白に染まりそうな
大きな光を感じた。
ア「私が行く、弓矢なんて怖くないもの」
光の中からアルエの声をした
魔物が現れる。
身体としては大きな鯨みたいで
潮が吹き出す穴が数十箇所あり
そこからビームのようなものが出て
私が想定していた弓を放つ機械の場所を直撃し、そして破壊した。
ドゴーン!!
できることなら
この行為はおすすめできない。
何故なら。
?「ブオオオオ」
洞窟に住む魔物の足音と共に唸り声が鳴り響く。
バ「一難去ってまた一難ってこれのこと?」
ル「う…ああ」
也「アルエちゃん、リギョンのことは今は諦めて!!ルティリアさんを病院に」
ふとアルエと目が合った。
ア「うう…仕方ないな、じゃあ也も一緒に♪」
おそらく、それは私を気遣っての言葉だろう。
大きい口を開けて
ゴクリと也とルティリアを飲み込む。
もちろん害はないことを承知の上だろうな?
也も何も言わないし、キャー!とかいやーん!とか。
也「サモ、スウ民族のみんなとバッ君をお願い」
声だけが聞こえてくる。
サモ「ふっ…也こそ依頼主が生きてたら、ちゃんと金はもらうようにな!」
也「はーい(棒読み)」
どうせ治療費に依頼主の治療費に当てるんだろうけど。

バ「…アルエ?」
ア「あ、この姿で会うの2度目だね、またビックリさせちゃった?」
バ「ううん、大丈夫、それよりありがとう、また命を守ってくれて嬉しいよ」
ア「えっへん!当然っしょ、友達なんだから」
姿に似合わない声を出すと違和感がある。
也「アルエ、そろそろ」
ア「うん、行こうかな」
バ「あ…ゴメン、最後に一つお願いが」
サモ「コラ、空気読め!」
也「お前が言うな!…で何?」
バ「もし、ルティリアさんの意識戻ったら伝えててよ」

残念だが、彼が也達に何を伝えてほしいと言ったのか
私にはわからない。
ということは、読者の君もわからない(笑)

なぜなら…。
ブオオオオーン
サモ「たあああああ!!」
ゴッ!
サモ「やああぁ!」
ザン!
戦わなければならない状況だからだ。

あれからどれほど時がたったのだろう?
必死に戦っている内に
アルエの姿はなくなっていた。
それはそうだ、もしいたら
怒りとともに私が斬っている。
ライトゲートの時ですら大方の魔力を消費し
ナイトドラゴンの力を借りる力もなく
武器だけを召喚。
そして、それが分単位ではなく時間単位に変わろうとしていて
かなり限界を超えていた。

サモ「はぁ、はぁ、もう…戦いたくはない」
疲れた、もう嫌だ。
数匹の魔物の死体を目にして
新手の魔物がいる中
炎を纏った剣は消えていく。

バ「…クリス」
もっと頑張れよとか言いたいのか?
膝末く私の肩をポンと叩いた。
サモ「…心配するな、誰も死なせはしない」
強がりもいいところだ。
なんで也を離れさせたのだろう。
也は今回ほとんど…いや、全く戦っていない。
この状況も対処できただろうに。
ふとあの時、ルティリアが倒れた時の也を思い出す。
サモ「あんな顔するから、也には戦わせたくなかった」
馬鹿だろ、私。
慣れささなきゃっていつも思っているはずなのに。
思わず泣き出しそうになる。

バ「大丈夫、俺達だって戦える」
サモ「え?」
なんということだ、私の真似をして彼も強がっている?
スウ民族「なんとかなるさ、みんなで力を合わせれば」
みんなで力を合わせれば、みんなで力を合わせれば。
何回も、スウ民族の数の分だけ
同じ言葉がリピートされる。
耳を疑ったが、そんな小さい身体で何ができるのか。
長「私達の潜在魔力をお前さんに授けよう」
洗剤魔力、違う潜在魔力だ。
一人一人、いや一匹一匹が
私を取り囲んで魔力を送ってくれた。
力が湧いてくる。
これでまた、戦える。

ドシンドシン

襲いかかる魔物たち
数は計り知れないが、何故だろう。
何も怖くはない。

ドシンドシン

バ「……!?」

魔物「ブオオオオオ」

魔力の注入が終え、再び立ち上がった。
サモ「ありがとうスウ民族のみんな、それで?」
バ「ん?」
彼を見つめる。
サモ「君は何をしてくれるのかな?」
バ「あ…えっと」
サモ「いやいい、期待していないから」
俺達はって言うもんだから本当は少ししていたが
魔物の大群を前に平然としているだけで良しとしよう。

パシャ!

カメラのシャッター音と一瞬のフラッシュが放たれた。
バ「……ごめん、俺ができることはこれだけ、ライトゲートだっけ?それでよろしく」
サモ「………」
この状況で写真撮るヤツがあるかぁー!!
ツッコミ所満載だが、今は感情を押し殺して彼の要望に応えることにした。
場所はスウ民族の村だ。

村に戻ると、甘い焼き菓子の匂いが充満していた。
スウ粉で作ったクッキーの匂いだ。
そこには。
ア「あ、おっかえりい」
也「良かった、皆無事そうで」
サモ「もう、送ったのか?」
ア「うん、というか洞窟出た所で也のガーディアンさんに引きととってもらった」
サモ「…ほう?ギロメがこんな所まできていたか」
也「なんでそうなる!?シオンさんだ、シオンさん」
ライトゲートでエルゼの所へ行くって言ってたの!と
顔を赤くしながら言った。
長「とりあえず、みんなの無事を祝ってお茶でもするかの?」
ア「うん!」

太陽の光が木で出来たテーブルを照らす。
そこに並べられた人数分のティーセットと
スウ粉のクッキー
略してスクッキーだ。

バ「えっと、あのさ」
彼が何か言いたげなことに気づいてアルエが反応する。
ア「バッくん、もしかして最後のあのこと言うの…」
バ「まぁ、そのことなんだけど」
ポケットから取り出したスマホの画面に
先程のパシャの正体が映し出された。
そこには。
也「これは!!」
ア「…嘘、本物だよね?」
サモ「ああ、間違いないな」

魔物大群の中に人影が。
一体の魔物の牙に身体を貫かれたリギョンの姿があった。

バ「最後に仇を打つとか言いながら、勝手に死んでしまったな」
きっと、私が聞きそびれた時の言葉だろう。

也「う、これルティリアさんに見せるの?」
ア「私達を殺そうとした敵とはいえ、可哀想だね」
バ「いや、ガーディアンに差し出すつもりさ」
俺達からは何も言わない、そうお互いが約束し
みんなでクッキーを頬張った。

その味は、いったいどんな味なのか?
気持ち次第で変わるというのなら
きっとそれは、ウママズイが適切だろう。
也「………」
也も笑みを浮かべることはなかった。
私も黙々と食べることにした。
楽しく話しているのは、アルエとスウ民族だけだった。



3月1日、リギョンが死んだ。
そして、妻ルティリアも一度病院で命を取り留めたものの
リギョンが死んだことを知った日に自殺した。
そのことでアティアを含むジャーナリスト達が駆け回った。
もちろん、エンタシスでも大ニュースだ。

数ヶ月経った今でも。
デ「もう、そろそろ元気ださないか、也」
いつまでこうなんだか。
也「………ルティリアさん」
君にこういう顔される時が一番困る。
ア「うーん難しいね、人間関係って」
サモ「もとからその気だったのだろう?あの男がもう一度ここへ来ないようにする為に」
也「ルシアさんは全部知っているからそんなことないはずなのに」
罪が多い人は2度目の生はないのに…と俯く。
ア「多分、自分自身も許せなかったのかな」
デ「それとも、今もまだ愛していたとか」
サモ「ありえないこともないか」

也「……よし、決めた」
也の沈んだ声が急変し、意味のなく一人立ち上がった。
サモ・ア「??!何を?」
也「バッ君とは最後まで友達でいること」
ア「うん!!」
サモ「まぁ、君が決めたのなら構わないが」
デ「よし、それなら今から会いにいくか」
主人公らしい(本当の主人公です)台詞。
家に出た瞬間主導権が切り替わるのが実に気の毒だ。

ガーディアンにとっても
バスクにとっても
そして、私達にとっても
同じ暑い一日が始まる。

それぞれの心のままに。

タイトル イケメン行商人ヤン・バスク完結編 END





  

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