タイトル ムームの決意(前編)


プロローグ(ムーム視点)


「早かれ遅かれいずれはこんな日がくるとわかっていた」

学校に行くペシュを見送り、深い溜息をつく。
気持ちを落ち着かせようとインスタントコーヒーを注ぎ
昨日読んだはずの手紙を読み返す。

そこには、今まで明かしていなかった僕の真実が記されていた。
しかも、その手紙は人から直接受け取ったもので
手紙を受け取るところを也に目撃されて
変な誤解をされては困るので
全部隠さずに説明した。

最後まで聴き終えた也は
一言だけ問いかけた。

「行ってみる?」

その答えは今も出せずにいる。
なぜならその場所は
僕の故郷なのだから。


『四季の花』

管理人が心を与えて
四季の花が一周巡る頃
僕はまだ幼かった。

僕は昔からお花が好きだった訳ではない。
本当に好きだったのは
僕のお世話をしてくれる人で
いつも会っては花の話ばかりしていた。

ある日のこと、白いカーテンが風に遊ばれていた。
いつも通りの花の話と学問、その後の質問タイムに
ずっと気になっていたことを聞いてみた。
「ねぇ、なんでお母さんとお父さんは僕のお世話しないの?」
お世話をしてくれる人にケチをつける訳ではない。
他の子供達はそれが当たり前なことだと思ったから。
世話人は優しく僕の頭を撫でてこう言った

「それはね、君の両親は王様と女王様だからだよ」
そして、君はいずれ国王となり国を守っていくんだよ…と。

そう、僕は王子様
頑張ってお勉強して、偉くなって、みんなから尊敬される人になるんだ。
それがこれからもずっと励みの日々が続くと思っていた。

心という意味を知らずに。

世話人は見た目高校生くらいの男性だが
お父さんに紹介された時には魔術師の55歳と言っていた。
もちろん、それなりの知識を持って
僕に色々教えてくれた。
僕は世話人の教えで偉くなっていく
そう思えなくなったのは
世話人の目を盗んで街へ出かけた時に
多くの人達が城の兵士に
強制労働されている姿を見てしまった時からだ。

母親がムチに打たれて泣く子供の声
命乞いをする老人
今にも倒れそうな人が沢山いた。
まるで市民を奴隷として扱うようだった。

知らなかった、知りたくなかった。
でも、知ってしまった。

偉くなったって、誰も尊敬してはくれない!!

そう思って…急いで世話人のところへ戻り
説明させた。

なぜこうなってしまったのか?
僕が知らないだけで今までずっとこうだったのか?
答えはたった三文字で返ってきた。

「ココロだよ」

大臣という上に立つ者の心が歪んでいるせいで
王様も女王も今まで任せていた大臣を信用した結果
こういう事態が起きてしまった。
世話人の説明に僕はどうしても納得できなかった。
それなら、お父さんとお母さんが直接街に行き
その目で状況を確かめて判断すればいい。

きっと…こんなことは望まないはずだと宣言するかのように
世話人に怒りをぶつけていた。

世話人は大きく溜息をつき
いつもの笑みを浮かべては優しく頭を撫でた。

「そう…思うなら、君はここにいるべきではない」

今の世話人の言葉が予想もできなかっのは
優しさという麻酔の所為なのか?

「え…今なんて?」
聞き直してみよう…僕はここにいてはいけない?
嘘…だよね?

ドス

音とともに体に激痛が走り
意識がぶっ飛んだようで
気を失ってしまった。

「…ごめんね、心は残酷なんだ」

そう…それが微かに世話人の口から聞こえた
最後の言葉だった。


あの時から四季の色が変わり
景色が緑から茶に変わったように見える。
でも、違った。

変わったのは、僕のいる場所だけだった。
横たわっていた僕のベットは
王宮とは比べ物にならないくらい臭くて
長く使われているようで傷んでいた。

窓から空を見ればわかるか。
四季は今も夏だ。
聞いたことのない音がジンジンと鳴り響く。
不思議そうに木にくっついている物を見つめていると
それは蝉という昆虫だよを教えてくれる
世話人…じゃなかった
知らない人(女性)がいた。

「いいかい、君の名前はムーム、今日から家の子だよ」

「違う!僕はムンガルト・マーチェだ!いずれは国王になる者だ」
礼儀を弁えよと自分の身長の倍以上ある人を睨みつけた。

「お?なかなか威勢の良い子じゃないか」
笑いながら僕の話もろくに聞かずに外へ追い出された。

「な…何をする無礼者!」

「王子だろうが何だろうが、今は…村のお友達を作ることを考えな」
…と背中を為すすべもなく押されていく。
え…村? 街ではないのか?

そんな疑問は見える景色が応えてくれた。
街と呼ぶには足りないものが多すぎだ。

セメントでできた建物が何一つないのだから。
全てが木でできていた。

「よぉ!オメーが言ってた奴か?」
「わぁ、女の子みたい」

茶髪の同年齢くらいの男の子と、金髪のリボンつけた少女が家の前で待っていた。
「違う!僕は男だ」

「ま…どっちでもいいけどよ仲良くしようぜ! 俺様はケイム」
「私はレイカ、よろしく」

「よろしく…じゃない!早く世話人を探して城へ…」

「お城?何そんなとこあんの?」
「行きたい行きたい♪」
「ないよな、少なくともエンタシスには」
「えー!ないの??」

「エンタシス…そんなの聞いたことない…あ」
確か大陸の名前だって教えてくれたような
でも、僕のいた場所とは違う、まさか異大陸まで飛ばされてしまったのか?

「なんで?なんでだよ?僕は何も悪くないのに」

街を知ってしまったからなの?
知らずにいれば家族同じ城の中で暮らせたの?
世話人は僕を見捨てたのは…

「ごめんね、心は残酷なんだ」

最後の言葉が突き刺さる。
なんでだろう
胸のどこかが苦しい。
頭がグラグラする
今は落ち着くんだ、落ち着くんだ。

「おい!どうしたんだよ?しんどいのか?」
ケイムの声を無視して家…決めつけられた家へヨロヨロと入っていった。

「ん?もう戻ってきたのか?」
僕の足音に反応して
見知らぬ女性は皿を洗いながら
一瞬だけ目をやった。

「どうして…僕はここにいるの?」
魔術師の力なら異大陸移動も容易いことなのか?
女性は世話人と会っているのか?

「一人で森に倒れているところを拾った」
「そう…」
やっぱり見捨てられたんだ。

「あ、そういえばアンタ、花束と手紙を抱えていたね」
それはどこしまったかな?と独り言を言いながら
皿洗いを中断して探し出した。

「あ、これこれ」

女性は僕に花瓶に入った花束と
一通の手紙を渡した。

「え…」
「安心しな、封は開けてないよ?」
「うん」

受け取り早足で臭いベットのある部屋に戻り
花瓶を適当に置いて、手紙をあけて読み始めた。

案の定、世話人からだ。

ムンガルトへ、君がこれを読む頃には
ここがどこで、新しくお世話をしてくれる人が誰か
わかっているのだと思う。

まずは、いきなり
強引なことをしてすまない。
許してもらえないと思うけれど
大人になればわかってくれると信じているよ。

これが一番良い方法なのかはわからないけど
自然の豊かな村に君を預けようと思う。

僕の教えや話にはないことで
溢れていることだろう。

君に伝えておきたいことが二つある。
一つ目…まずこれは、王様や女王様の意志でもあった。
大臣の様子がおかしいことも本当わかっていた。
君の言うとおり、僕も納得がいかなかったが
苦しむ市民を平然として見る大臣の心を恐れて
何も言えなくなってしまうのは、
紛れもなく僕や君の両親の心の弱さ故だ。

改めて、こういう決断をしてしまって君にはすまないと思っている。

二つ目は僕自身も異大陸へ旅に出ようと思う…というか出ている。
まだ知らぬ多くのお花さん達が僕を待っているんだ。

また手紙を書いて送るよ。
花束(自然)と一緒に。

元気でね、ムンガルト
うまく村に馴染むんだよ。

世話人より

「…………旅をしているんじゃ返事出せないじゃないか」
ポリポリと頭を掻いて、無理矢理、苦笑いをする。

これから知るのだろう
心の真実を。

四季が変わることで一つ楽しいことがある。

「ムーム、また手紙と花束が届いるよ」

それは世話人が手紙で言っていた手紙は四季が変わるごとに送られ
村ではない花が多く届けられることだ。
初めは鬱陶しいと思っていたが
いつしか僕自身も花が好きになった。

花の香りを嗅いで、空を見上げて笑った。








  

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